ミステリーサークル
ウッドデッキの下のカヤックで眠り、朝になったら窓際のカリカリを食べ、隣の広場でウンチをして、網戸越しにみかんとお話をする...そんな暮らしを始めて数日が経った。
毎朝、とーちゃんは決まった時間に玄関から出てきて、ウッドデッキの床板の隙間からボクを覗いて『おはよう!』って言う。とーちゃんが出て行ってしばらくすると、かーちゃんが『ジロー!』って呼んで窓際にカリカリを出してくれる。
昨日までカリカリのお皿はお弁当のフタだったので夢中で食べてるとズレて具合が悪かったけど、今日からピカピカの新品のお皿に代わって、滑らなくてとても食べやすかった。
でもやっぱりニンゲンは苦手。5m以内に近づいてくると、やっぱり怖くて『シャー!』って威嚇してしまうんだ。
食後のおつとめは隣の広場で。どうやらこの広場はとーちゃんの土地みたいで、これから"ガレージ"っていうクルマのお家を建てるみたい。ボクには家がないのに、クルマに家があるなんて、世の中は不公平だな、と思う。
ウンチは母さんに教えられた通り、念入りに砂を掛けて。
この辺は犬を飼ってる家が多いからなのか、割と猫が少ない地域らしいけど(母さんによると、昔、この辺には"ちーちょ"と呼ばれる大猫が住んでいて、オス猫が一切立ち入り出来ないエリアだった名残りもあるみたいだ。)、それでもウンチの臭いで他のオス猫に見つかってイジメられたり追い出されたりしたら大変だし。
ただ、僕が念入りに隠したウンチも、夕方になって帰ってきたとーちゃんが全部キレイに片付けてくれるんだ。
『おっ、お腹の調子が良くなってきたみたいだな。でも、コレ、なんだか地面にお花の絵が描いてあるみたいだな。ミステリーサークルにも見えるし♪』
とーちゃんはボクのウンチを木の枝でツンツンして、ニコニコ笑いながらそんなことを言ってた。
そんなとーちゃんを見て、ニンゲンってホントに変な生き物だなって思った。