ジローという名前

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どうやら、このカリカリはボクのためにかーちゃんが用意してくれたもののようだ。
おなかいっぱい食べて、ボクはウッドデッキの下にあるカヤックという小さなフネの上で眠った。

翌朝、お腹が減ったので、ウッドデッキのカリカリを食べに行った。
すると窓際に子猫のみかんがいて、ボクをじっと見つめていた。
すぐにトラ猫のうりさんもボクに気づいて、シャーって威嚇した。でもその様子はとりあえずって感じで、本気のシャーじゃなかったのでホッとしながら窓際に置いてあるカリカリを食べた。

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ボクが夢中でカリカリを食べていると、窓際のみかんがウザいぐらいに話しかけてきた。

『どこから来たの?』
『何してるの?』
『お名前は?』
『ケガしてるの痛そうね。』

ボクはみかんと網戸越しに色んなことを話した。
みかんは"サイタマ"の戸田という場所で5月に拾われた捨て猫で、でも小さかったから大学生のお兄ちゃんお姉ちゃんの住んでいる"ガッシュクジョ"の芝生の庭でエサをもらったり抱っこされたりして可愛がられる前のことはあまり覚えていないのだそうだ。

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たくさんのボートが行き交う戸田の水辺からシンカンセンに乗ってとーちゃんちにやって来た5月、ボクと同じようにセンセイに診てもらって、病気があるかどうかが判らないって理由でもう一度トーキョーに戻ってからここにやって来た5日前まで、若いとーちゃん"まさ"のアパートでこっそり飼われてて、でもとーちゃんが学校に行ってから帰るまでひとりぼっちだったのが寂しかったけど、ここに来てからはうり姐さんといつも一緒だし、とーちゃんやかーちゃんもいるし、結構幸せなんだそうだ。

『ねぇ、ジローちゃん、またお話ししましょうね。』
ジロー?誰だ、それ?
『かーちゃんがあなたのことをこっそりそう呼んでるわよ。"ジローちゃんどうしてるのかしらね?"って心配してたから、時々顔を見せてあげたら?』
ジロー?
ボクは名前なんかなくて、病院の診断書には「猫ちゃん」って書いてあったぐらいだし。
ジロー?ふ〜ん、ジローねぇ。