招かざる客

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ボクはセンセイの病院で3日間を過ごした。
あとで聞いた話だけど、"ヒゲ"こととーちゃんはボクを拾い上げた翌朝からトーキョーに行くことになっていて、ボクを見つけた瞬間『困ったことになったぞ。』と思ったらしい。
そんなわけで、3日後、ボクはミントグリーンのケージを手にやってきたとーちゃんとその奥さんであるかーちゃんに引き取られた。

『この子はオスだし、もう野良猫として育って大人になっているから、飼い猫として家の中で飼うのは難しいと思うよ。』センセイが言った。
『うん。うりちゃんもいるし、みかんもやって来て、3匹なんて無理だからな。』と、とーちゃん。
『言い方は良くないけど、野良は野良として生きて行け!ってのが正しいかも。』

(妙にタメ口で話してるなぁって思ったら、とーちゃんとセンセイは同級生なんだそうだ。)

 

ボクには状況がよく分からないのだけれど、どうやらとーちゃんは"うり"という変な名前のネコを飼っていて、ボクを拾い上げた前の日に"まさ"というあの若い男(*とーちゃんの息子らしい)がトーキョーからもう1匹の"みかん"というネコを連れてきたみたいだ。

要するにボクは招かざる客ってことなんだな...ボクはそう理解した。
ボクだって好きな時に好きなことができない飼い猫なんて、こっちから願い下げだし。

ケージに入ったまま、クルマに乗せられ、3日ぶりに懐かしい縄張りに戻ったボク。
とーちゃんとかーちゃんは、庭のウッドデッキの上でケージの扉を開けた。
『あばよ!』
ボクは迷うことなくケージから飛び出て、全速力で走り去った。まるでどこかの国のロケット発射シーンみたいに。

その夜は柚子の樹の下で過ごした。
病院にいるときは気が付かなかったけど、改めて自分を見ると身体中にケガがあったし、あちこちが痛んだ。
テンテキと2日目から食べられるようになったカリカリ(キャットフード)のおかげでギリギリで歩いたり走ったりできるまでになったけど、体重は1,800gしかなく、情けないことに樹に留まってるセミを捕まえることも出来なかった。

とーちゃんの家には暖かな明かりが灯って、幸せそうな笑い声に混じって子猫の鳴き声がした。ボクはその声に引き寄せられるようにとーちゃんの家のウッドデッキに行って、こっそりと窓から家の中を覗いた。
網戸越しに見た家の中にはお母さんみたいに優しそうなトラ猫のうりさんが居眠りをしてて、やんちゃ盛りの子猫がとーちゃんに猫じゃらしで遊んでもらっていた。

 

ふとウッドデッキの隅を見ると、そこにはボウルに入ったカリカリが置かれていた。
僕は夢中で食べた。