ふつつか者ですが。
清潔なトイレで初めて用を足した後、キレイな飲み水でノドを潤して、ボクは網戸越しに眺めているだけだった憧れの赤いソファに上ってみた。
しばらくして家事を終えたかーちゃんがソファに座ったら、すぐにみかんが膝に飛び乗って、スヤスヤと寝息をたてて眠り始めた。
あらためて薪ストーブの前に座ってるうりさんのそばに行って挨拶をした。前脚を揃えて座り、目を閉じて尻尾を丸め...って元から丸いけど...頭を下げジッとする...これが『ふつつか者ですが、どうぞよろしく。』のポーズ。
するとうりさんがボクのおでこをペロペロ...これが『こちらこそよろしくね。』の意味。
ネコは言葉ではなくボディランゲージで気持ちを伝えるんだ。
で、モジモジしながら、かーちゃんの膝で寝てるみかんを羨ましい目で見ていたら、うりさんがかーちゃんの方に視線を送って『行けば?今日は譲ってあげる』って許してくれた。
うり姐さん、ありがとうございます。
ボクは早足でソファに飛び乗って、恐る恐るかーちゃんの膝に乗った。
本当に暖かくて柔らかで、ボクは目を閉じた瞬間、一瞬で気を失った。
『ジロちゃん今日は大変だったわね〜、ゆっくりお休み。』
かーちゃんがそう言いながらボクのお腹をナデナデしてくれた。エリザベスカラーが巻かれた首が時々痒くなってモゾモゾしていると、みかんが前脚でカリカリ掻いて、ペロペロと毛繕いしてくれた。
ボクは母さんと別れて以来、初めて“家族”が出来た。麻酔が切れた股間の痛みすら幸せに感じた。